『愛おしい艤装』感想

Ask.fm経由で『愛おしい艤装』の感想をいただきました。

公開許可を頂きましたので、せっかくですのでこちらで公開させていただこうかと思います。既にお読みの方、ネタバレを気にしない方は、よろしければ「続きを読む」からどうぞ。

 

1.今日は、或いは今晩は。 作品「愛おしい艤装」を読ませて頂いた感想をお送りしたいと思います。 ちょっと長いので分割します。番号順にお読み下さい。 感想に当たる前に一つ、前提を置かせてもらいたいと思います。 私は、該当作品のオマージュ元である「愛おしい骨」を読んだことが有りません。 また、それに関する情報(感想・批評等)も集めたりはしておりません。 持っている情報とすればブログに注意書きと共に添えられていた内容ぐらいでしょうか。 そのため、ある種の推理小説的内容であるトリックについて、或いはその結末について 見当違いな感想や意見が飛び出してしまうかもしれません。

2.その様な事が有れば、どうか浅学からなる若輩者の戯言だと笑い捨てて頂ければ幸いです。 それでは、そうですね。色々と話してみたい気もするのですが。 まずは話の肝であったであろう艤装輸送の犯人について、 読む過程での推察や感じたことを述べてみたいと思います。 端的に言ってしまえば、私は序文から終盤に至るまで一貫して、赤城さんがそうであると判断していました。 それは何処其処の何という文言から、ではなく読み物としての面白さを考えた時にそうするのがベターであると思えたからです。 深海棲艦が犯人でも、赤城さん以外の艦娘の誰かが犯人であっても何の面白味も無いと。

3.彼女らを犯罪者に仕立て上げるには、あまりにも出番が少なすぎるだろうと。 しかし、私は(ブログの)あらすじを読んでおきながらも、一つの勘違いをしていて、最後までその事実に気が付きませんでした。或いは、終盤に至るまでに、人と艦娘のギャップを理解し得なかったのでしょう。この小説は輸送犯の種を推察するゲームではなく、誰が犯人であるかを踏まえた上で、その思想と過程を追想するシミュレーションだったのです。 つまり、私の、犯人が赤城さんであるという予想は間違えていたのです。

4.なのに、そう伝えれば彼女は当然の如く微笑むのでしょう。いいえ、間違いなく合っていますよ。と。読後の感想といえば正しく、してやられた。でしょうね。 このトリックはある種の叙述トリックなのかもしれませんが、読みながらでも整合性を踏まえて推理すれば、正解に辿り着く仮定が得られた筈なのです。ああ悔しい。 しかしこの仕掛け、実に恐ろしいものです。一体、この物語の中における赤城という存在は何(若しくは誰)なのでしょうか。 赤城にとって、赤城は一人しか存在しません(これすらも未だ私の誤認である可能性は有りますが、そう仮定してしまいます)。

5.けれど、読者にとって、或いは提督にとって(これも怪しい所ではあります)はそうではないのでしょう。 だから、赤城という艦娘は連続的であり、離散的であり、そして、並行的でも有ります。 島で一番美味しい焼き菓子を出す店で働く少女、由良。彼女は明示的な象徴として艦娘の並列性を語りました。 (因みにここで、駆逐艦のお姉さんをする由良さん可愛い!可愛いよぉ!!となっていたことは、まあ本筋に関係無い葉という事で。) 一方、赤城は暗黙的に並列性が語られ、そして読者の知らない間に彼女達は統合されました。

6.果たして、私達が離散的に捉えていた赤城の内、どの赤城が今(人間の主観として)生きている赤城なのでしょうか。 私は、生き残ったのは沈んだ赤城だと思っています。 終盤における彼女の語り口は私からしてみれば、異様で、異質で、受け入れ難いものでした。 それは彼女の艦娘としての感覚が、ではありません。 彼女が、自分が沈んだ過去を受け入れた上で、幽鬼の如く提督を論理で打ち崩すその姿が、です。 そこに有るのは、生者の言葉では有りません。死者の言葉です。 目的が無い命を羨ましいと言っていた赤城は、提督への愛情という鎖に縛られて、遂には執着する彼女に食べられてしまったのです。

7.私は、この様に解釈しました。つまり、恐れを知らずに傍若無人な言葉を振る舞うのであれば、沈んだ赤城はヤンデレだと思いました! まあ結果的に二人共幸せそうなので私的にはこの話いいね!いいと思います! 結末から言えば提督自身はあちら側の認識に立っているので、まあ愛情の対象について齟齬も生じにくいでしょうしね。 それでは、際限が無くなっても困るので。この辺りで感想の区切りとさせて頂きたいと思います。 読み返すと感想というより考察に近い感じが致しますね。長々と書いてしまい申し訳ありません。 失礼致します。あとそう。腱鞘炎には気を付けて下さいね。ご自愛くださいませ。

 

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こういう感想を頂くと嬉しくと死んでしまうのですけど。ゆらだち書いちゃおっかなー、とか思ってしまうのですけど、それはさておき。あのお話の犯人(?)はメタ的な視点に立てば案外簡単に答えが出てしまうんですよね。作中の手がかりだけでも「ちゃんと理詰めで答えが出るかどうかは分からないけど、まあそれが答えだと言われたら納得出来る」ところまでは詰められるのではないかと思うんです。「誰が艤装を回収していたのか」というフーダニットとしては、大した出来ではないと言っていいでしょう。

でも、それはあくまでもフックに過ぎません。元ネタがそうであるように、犯人当てはあくまでも牽引力に過ぎなくて、本当に大事なことは作中に散りばめられています(というか、散りばめました)。単純な謎解きものとして読んで壁に叩きつけるのではなく、その裏に潜んだ悍ましい論理に戦慄していただけたこと、本当に喜ばしく思います。

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あの方は本当に「論理」的なお方です。